油中に分散した水滴の凍結は隣の水滴に次々と伝わる凍結保存技術の向上に期待
油中に分散した水滴の凍結は隣の水滴に次々と伝わる
凍結保存技術の向上に期待
稲澤晋教授(工学研究院応用化学部門)らは、無数の水滴が油中に分散した「油中水滴(Water-in-Oil)型エマルション」で水滴が凍る様子を観測し、水滴が凍るとその隣の水滴が凍り始めること、凍結が隣の水滴に伝わる速度が全体の凍結速度を決めていることを明らかにしました。
本研究成果は、Langmuir 誌に7月16日に掲載されました。
論文名:Propagation of freezing in supercooled water-in-antifreezing-oil emulsions
著者名:Hiiro Komatsu and Susumu Inasawa
URL:https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.4c01840
現状
無数の小さな水滴が油に分散した油中水滴(Water-in-Oil)型エマルション(W/Oエマルション;*)は、食品や化粧品など生活に身近な製品に使われています。純水の凍結温度が0℃であり、小さな水滴として油中に分散している場合でも十分に冷やせば水滴が凍結することは知られています。しかし、冷えた状態で水滴の凍結がどのように起こるのかを直接観察した例がなく、水滴の冷却温度と凍結速度がどのような関係であるかの情報も得られていませんでした。冷凍保存は重要な保存方法であり、水滴の凍結の進み方で品質が変わることがあるため、凍結速度に焦点を当てた研究は重要です。
研究体制
本研究は、小松ひいろ氏(本学大学院生物システム応用科学府博士前期課程2023年度修了)と稲澤晋教授の研究成果です。日本学術振興会(JP21K18843, JP23H01742, JP23K26435)の助成を受けました。
研究成果
直径0.1 mm程度の小さな水滴を-18℃でも凍らない油の中に分散させたW/Oエマルションをガラス基板上に滴下し、-18℃から-7℃程度まで冷却して水滴を凍らせました。このときの様子を、光学顕微鏡と循環冷却槽とをうまく組み合わせてリアルタイムで観察することに成功しました。得られた画像を解析し、以下のことを明らかにしました。
(1)油中水滴はなかなか凍らないが、1つの滴が凍ると隣接する水滴に次々と凍結が伝播する(図1)。
(2)凍った滴に接していない水滴には凍結は伝播しない。
(3)ある水滴1が凍ってから、接している水滴2が凍り始めるまでには何も起こらない時間(誘導期)がある(図2)。
(4)同様の条件で純水のみが凍る速度に比べると、W/Oエマルション内の水滴凍結速度は1/100以下である。
今後の展開
0℃よりも低い温度で油中の水滴を冷却しても凍結がなかなか始まらないものの、一部の水滴が凍ると隣接する水滴に凍結が次々と伝播する新たな現象を発見しました。W/Oエマルションでは、水滴同士が薄い油膜で隔てられています。小分けにされた水(=水滴)の凍り方は、小分けにされていない体積の大きな純水とは異なることを示しました。凍結保存は水と油とが共存する素材に用いることが多いですが、こうした複雑な素材の凍り方と品質の関係を明らかにすれば、凍結保存での品質向上につながることが期待されます。
用語説明
(*)無数の細かい水滴が、水が溶けない油の中に漂っている溶液のこと。
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◆研究に関する問い合わせ◆
新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学院工学研究院
応用化学部門 教授
稲澤 晋(いなさわ すすむ)
E-mail:takehito(ここに@を入れてください)cc.wxanhx.com
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